2014.01.01
青葉通信 1月号 巻頭言
事業所長 武者明彦
新年明けましておめでとうございます。
さて、昨年12月4日の臨時国会で、ようやく日本でも障害者権利条約の批准が承認されました。新年にあたり、条約の批准をスタートに、日本の障害者施策が新しい段階に進むことを期待します。本稿では、どのような条約なのか、その内容を概観してみます。
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障害者権利条約では、健常者にあたりまえに保障されている権利を障害者にも平等に保障しています。逆に言えば、障害者に特別の権利を与えるというものではありません。障害者が障害のない人と実際的に平等な機会を保障されるためのものです。条文は以下のような構成になっています(条項は外務省HP、仮訳文によります)。
●前文、一般規程(第1条から第9条)
まず前文で、条約締結国は、世界人権宣言と人権に関する国際規約に掲げるいかなる差別もなしに、規約に掲げるすべての権利と自由を享有(生まれながらにもっている)することを宣言しています。第1条「目的」では、障害や障害者を、身体的、精神的、知的または感覚的な障害を有する人で、まわりの態度や環境によって、社会参加に様々な制約を受ける人という「社会モデル」をはっきりと規定しています。第2条「定義」では、条約で使われる言葉を規定しています。「意思疎通(コミュニケーション)」には点字や触覚によるものなども含みます。「言語」には手話を認めています。「障害を理由とする差別」は、あらゆる区別、排除、制限、実際に障害者が不利になること、合理的配慮をしないこととしています。「合理的配慮」は、機会が平等にあたえられ、障害者だけが特別に努力をしなくてもいい環境をつくっていくこと、「ユニバーサルデザイン」は、すべての人が利用できる製品、環境、計画サービスのデザインのこととしています。
第3条「一般原則」には、この条約の原則が8項目に整理され掲げられています。第4条「一般的義務」では、この条約にある権利の実現のために、立法措置と行政措置などをとる事、差別となる既存の法律、規則、慣習などを変えるか無くすことなどが規定されています。第5条「平等及び差別されないこと」、第6条「障害のある女子」、第7条「障害のある児童」、第8条「意識の向上」、第9条「施設及びサービスの利用可能性(アクセシビリティ)」と一般規程が続きます。
●実体規定(第10条から第30条)
第10条「生命に対する権利」、第11条「危険な状況及び人道上の緊急事態」、第12条「法律の前に等しく認められる権利」ここでは、障害者も障害のない人と同じ権利があり、生活上のすべてについて法的能力がある事、使うに当たって必要な援助を受けられることが規定されています。第13条「司法手続きの利用」、第14条「身体の自由及び安全」、第15条「拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取り扱い若しくは刑罰からの自由」、第16条「搾取、暴力的及び虐待からの自由」、第17条「個人が健全であること(インテグリティ)の保護」、第18条「移動の自由及び国籍についての権利」と続きます。
第19条「自立した生活及び地域社会に受け入れられること」では、自分が望む地域で住みたい人と生活できる事。地域社会への受け入れを支援し孤立や隔離を防ぐことが権利として規定されています。第20条「個人的な移動を容易にすること」、第21条「表現及び意見の自由並びに情報の利用」、第22条「プライバシーの尊重」、第23条「家庭および家族の尊重」ここでは、結婚や家庭や子供を持つ権利を保障しています。次いで第24条「教育」では、地域の学校で、一緒に学ぶ(インクルージョン)ことができる制度にすること、そのために手話や点字ができる教員を配置することなどが規定されています。第25条「健康」、第26条「リハビリテーション」です。
第27条「労働及び雇用」ここでは、公的部門で障害者雇用を進めること、障害者であることを理由に雇用しないという差別を禁止し、同時に合理的配慮を行うことで障害者が仕事をできる環境をつくることなどを義務づけています。第28条「相当な生活水準及び社会的保障」ここでは、障害者とその家族の生活水準を改善する努力を行う事、公営住宅を利用できるようにすること、退職に伴う給付を得られるようにすること等が規定されています。第29条「政治的及び公的活動への参加」、第30条は「文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加」です。
●実施規定(第31条から第40条)
第31条「統計及び資料の収集」、32条「国際協力」、第33条「国内的な実施及び監視(モニタリング)」、第34条「障害のある人の権利に関する委員会」この条約がきちんと日本の中でどのように進められているか、世界の国々で進められているかを、みんなで見ていくことが定められています。第35条から第40条はその他履行に関する条項です。そして第41条から第50条は、条約の効力発生や批准手続きなどの規定です。条約の署名や加入、効力の発生、改正など、手続きに関することがかかれています。
ここまで権利条約の条文を駆け足で見てきました。第49条には、条約本文がすべての人に利用可能な形式で提供される必要があることが規定されています。皆さんにはぜひ機会を見つけて条文を読んでいただくことをお願いして、筆を置きたいと思います。
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昨年実施したご家族を含めた個人面談では、自立した地域生活を送るための準備が大きなテーマとなりました。本号では、利用契約時の立会などで皆さんご存知の、高橋司法書士が成年後見制度を具体的に解説する記事を寄稿してくださっています。今後シリーズでお届けしますので是非ご一読ください。